コサねはコサック騎兵だ。
入植地が2の時代に進化したのと同時、軍事顧問として本国より招聘された。任務は2つ。1つは後進の育成、敵対する他国の入植地への威力偵察。後者は顧問の仕事ではないと思いつつも、後進が育ちきっていない以上、仕方がないと割り切った。
コサね(いい天気)
やわらかく風がふく、それには甘い花のにおいが染みている。早駆けするにはいい日和だとコサねは思うが、いまは任務に集中しなくてはならない。
しばらくしてコサねは、ひとの話し声に気づいた。
コサね(・・・軍隊ではない。緊張感のない声だ)
コサね(仕事ね)
コサねは長剣を抜刀し、声のしたほうに向けて馬を走らせた。
敵対する入植者が鹿を狩っている。かれらはコサねに気づくけれども逃げ出すより先、コサねの長剣がそのひとりに届いた。切っ先がさくり、と遅れた少女のなかに入りこむ。
コサね(・・・)
がくり、と背から腹をつらぬかれた少女は地面に倒れた。少女を残して、ほかの入植者は遠くに逃げている。少女は口から血を吐いた。なにが起こったのか分からない、という表情はすぐに激痛でゆがんだ。泣いて、叫んでいる。
コサね「あなたは感じられるのだから、幸せかもしれないよ?」
遠い国の少女だ、コサねの言葉を理解できたとは思えない。それでも、コサねの羨むような声に少女は、どうして、と小さな息で返事をした。
コサね「苦しみながら、自分の命を思いながら・・・」
コサねはスト美たちのことを思い出していた。トーチカに連れてこられた少女は、まず一日、木の棒を与えられ、捕虜を殴るように命じられる。少女が殴ることを拒めば、拒んだ数だけ彼女が折檻された。そうやって殺いでいくのだ、スト美であるためには余分なものを。そうやってスト美になっていくのだ、だれが最初にスト美になるのかは分からない。ただ、だれか必ず楽天的で、苦痛をわすれたスト美になり、それが感染するみたいに少女たちに広がる。
コサねの目の前の少女が血も吐かなくなり、呼吸も止まった。
コサね(この娘は苦しんで、死んだ。だから、スト美じゃない。おそらくそれは幸せなことだ)
コサねは馬の鼻先を反して、来た道を戻る。
こんなことをコサねはずっとくり返している。斥侯役とはそういうものだと知っているが、少しずつ辛くなる。軍隊を相手にするのと違い、一般人を襲うのは良心がいたむ。とくにスト美の存在が、コサねの心にさらに歪な陰を落としている。
コサね(こういうのが好きなやつもいたわね・・・。あいつは、最後まで理解できなかったけれど・・・。私は結局、入植地に左遷なわけだし・・・)
コサねが前線基地に戻ると、そこはお祭り騒ぎになっていた。すぐそこまで敵の一団がやってきて、攻城の準備をしている。
マス子とスト美との1隊が半壊したことは伝令から聞いている。そのあと本国から援軍にきた弓騎兵とスト美が反抗にでたことも聞いた。ということは、逆襲が逆襲されたということだろうか。
地響きのような音がした、それから風切り音がする。コサねがそのほうへ目をやると、スト美が一斉に宙を舞っている。
スト美「あれれー? 手がなくなっちゃった」
あいかわらずよく分かっていない反応だった。そうやってスト美を盾にして、馬にしがみつくように騎乗した女兵士がやってくる。負傷していた、毛皮の白と茶色の着物が赤く汚れている――タタ子だった。
タタ子はコサねを一瞥すると、苦々しく笑った。
タタ子「顧問様は、気楽だ」
コサね「なにがあったの?」
タタ子「敵が大砲とスカーミッシャーを用意した、それだけ」
コサね「そう・・・。それで、スト美を盾にして撤退というわけ?」
タタ子「?」
コサね「なんでもないよ」
タタ子が基地にもどるのと入れ替わり、教官がでてくる。
教官 「コサねか! よく戻った」
コサね「教官」
教官 「見てのとおりだ。相手は大砲を持ちだして、それからスカーミッシャーでタタ子たちを狙い撃ちにした。こちらの戦術が読まれたのだろう」
コサね「でしょうね、準備がよすぎる」
教官 「そこで、われわれも相手の裏をかかなくちゃいけない」
コサね「この状況では奇策に走るしかないでしょう」
教官 「だから、準備した。おいで!」
教官がさけぶと、ずらずらと騎乗した少女がやってくる。タタールではない、統一された軍服を着た騎兵の一団だ。コサねの見たことのある顔ぶれ、彼女が鍛えている少女たちだ。
コサね「! 彼女たちはまだ実戦には・・・」
教官 「うん、きみからの報告は聞いている。そして、きみのことを私は信用している」
コサね「いま出撃してもいたずらに死者がでるだけです」
教官 「欲しいのは、未来の一流の騎兵ではなく、一流でなくてもいい今いる騎兵だ。彼女たちにはスト美と同じ訓練を受けてもらった」
コサねは反射的に目の前の少女たちにむかって、彼女たちの名前をさけんだ。馬にまたがった少女たちは首をかしげるばかりだ。
教官 「コサね・・・きみには彼女らを率いて敵を撃破してもらいたい」
コサね「・・・。命令ですか」
教官 「当たり前だろ。私は指揮官でもあるのだから」
コサね「分かりました」
コサねは行くぞ、と少女たちにむかって叫ぶと、馬の腹をけった、全力で全速で前線に突撃しよう。そのコサねに少女たちは従う、歯車のように乱れない動きだ。
前線はひどい有様だった。
スト美たちがそこかしかに倒れていて、そうでありながらも彼女たちはライフルをつかむと射撃する。その反動で、スト美の傷口から血がふきだす。真っ青になった唇で笑いながら、スト美は射撃をつづけている。
砲弾が、そのスト美の頭をふきとばした。
コサねは一気にそれを駆けぬけると、敵の一団に突撃した。
ロシアが騎兵を用意したのが意外だったのか――コサねは少なくともこのタイミングでの騎兵の投入はないと思っていた――敵陣は総崩れになった。タタールとスト美たちの一団とは違う、統率された軍隊の突撃は、簡単に敵を打破り、ふたたび戦線を押しかえした。
生き残ったスト美たちは、馬上のコサねたちの後ろを走って追いかけた。
コサねが後ろをふり返ると、スト美とコサックの少女たちが、同じような笑顔をうかべているのに気づいた。コサねは、さきほど殺した敵の少女の顔が頭にうかんだ。スト美たちのなかには軽傷ではないものも含まれている――ひとり重症だったスト美が地面にたおれて、動けなくなった。最期までスト美は笑っている。
コサねが敵の前線に到着すると、そこはもう焼け野原になっていた。
前線のあった場所に入植者の死体が積まれていて、それを嬉しそうに見あげる女がいた。コサねのよく知っている顔だ。
女 「よう。ずいぶん遅いじゃないか」
コサね「オプ江、どうして」
オプ江「入植地に反逆的なやつがいるって、前々から報告があがっていてね。見聞を広めるのもいいだろうってことで、出張したのさ」
コサね「それがなんで前線に?」
オプ江「簡単だろ、入植地のクズどもができなかったことをやりとげる、私の有能さを上に訴えるには、これ以上はないさ」
コサね「・・・」
オプ江「で、話は変わるんだけれど、お前さ、私のために反逆者にならない?」
コサね「意味わからないわ、それもこんな人の目のあるところでいうこと?」
オプ江「あいつらが、会話を理解できているとでも?」
コサねがふり返る。彼女に従ってきたスト美や彼女が鍛えてきた少女たちはみんな一様に同じ笑顔をうかべていた。
コサね「間違っている」
オプ江「最後まで残ったほうが、正解だよ」
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よく晴れた冬の日。ここは祖国と違い、雪の積もらない土地だ。
戦い、勝ち取った土地であり、その戦いに私も従軍していたという。従軍したときの記憶は、すとんと抜け落ちている。棚から荷物を捨てたみたいに、その部分だけ欠落している。
それは同じように従軍していた少女たちに共通していることだった。
日々の生活に忙殺されて、その欠落を気にするものはないようだ。ただ、私はときどきそれが気になって、植民地の周囲を散歩するのだ。戦場のあとを歩き、何かを思い出せるのではないか、と思う。
その日もそうで、私は当てもないのに戦場を歩いていて、一つの武器の破片を見つけた。銃剣だったか、それの一部であり、見ると悲しくなった。きっと欠落した記憶に関係するのだろう。
私は破片を持ちかえり、家の棚に置いた。残りの破片をすべて揃えることができたら、なにか大事なことを思い出せるだろう、と。
コサック
HP : 225
射程 : -
攻撃 : 近接26 遠距離- 攻城15
※ 人口コスト1
オプリーチニック
HP : 250
射程 : -
攻撃 : 近接20 遠距離- 攻城75
※ 農民×3のボーナスダメージ